地域文化、地域のアイデンティティの核になるのは其の地域の言葉です。
それを抜きにして、東京語(共通日本語)の使用しか認めないと言うことであれば、そのようなメディアはむしろ言語の交代を通して、地域文化を弱め、地域アイデンティティを崩壊させてしまうように働くことになります。
 地域のメディアとして倫理的にそれはやっていけない事だと思います。上記のような地域のメディアのディレクターや記者の中に「長崎の文化を守り成長させたい」と言う素朴な気持ちを持つ方々を育てて頂きたいと考えています。
 
「言語権世界宣言」(1)バルセローナ1996
第7条第1項 全ての言語は、集団的自己同一性の表現であり、現実を知覚し記述する特有の方法の表現である。
第8条第2項 全ての言語共同体は、その言葉が将来に渡り伝達され、継続されることを可能とするための必要な手段を講じる権利を有する。
第9条 全ての言語共同体は、誘導的または支配的干渉なしに、その言語体系を規範化し、標準化し、維持し、発展させ、振興させる権利を有する。
第10条第1項 全ての言語共同体は、権利において平等である。


 ことばはそれを使う人・地域のアイデンティティ・価値観・感性を決める決定的なものです。この「言語権世界宣言」ではことばの権利(言語権)を基本的人権の一部であるものとして力強く宣言しています。地域の人達が自分達のことばを体系化し、地域社会で常時使用し、後世に伝えることは当然の権利です。
 また、地域語や公用語などのレッテルとは無関係に、どのことばも平等です。
その背景には、19世紀以来国家によって強制的に言語が統一されてきたこと、20世紀にはさらに超国家言語としての英語による世界的支配が強まったことで、逆に地域言語の重要性が認識されてきたことが挙げられます。これは古い「力の原理」に対して、新しい「多様性の原理」を実現させようとするものです。そのためイギリスでは英語以外に本来の言語であるケルト系言語が地域の精神的柱としてその重要性が認識されてきています。またスペインでも国家とは異なる独自の文化・言語・アイデンティティを持つものとして、カタルーニャ、バスクなどの諸地域が制度的にもその自立を目指してきています。
 これらの例では、国家とは異なる次元で自立した言語・文化を持つ地域の重要性を認め、国家よりも地域がむしろ自分達の心の拠り所であることを示しています。さらに地域言語だけでなく国家の言語(公用語)をも身につけバイリンガルであることが目指されています。つまり21世紀の世界的潮流として、第一に脱中央集権による地域主義、第二に地域語−公用語バイリンガル、の二つが挙げられます。
20世紀は、残念ながら「一国家、一民族」の原理(2)がうまく現実とは合わないため、多くの戦争や民族紛争を引き起こした悲劇の世紀でした。国家と言語・民族の境界は必ずしも一致するとは限りません。異なる言語・文化の共存のためには、異なるものへの理解や寛容の精神を持ち、基本的に人権に関わる重要なことだという認識が必要です。
 つぎに日本列島に目を向けると、アイヌ(北海道)、琉球(南西諸島)、狭義の日本(九州、四国、本州)の三つの民族が歴史的に存在し、とても多様です(3)。狭義の日本だけに限定すると、19世紀中頃までは中央語である上方ことばが上品だと思われ、江戸のことばは下品で乱暴だと言われていました。しかし偶然にもその後東京語が共通語として採用されると、今度は東京語のみが正統であるかのような価値観が生み出され、他地域の言語を圧迫してきました。このように言語に対する評価は時代と共に移ろい易いものです。それに比べ各地域の言語は各々数千年の歴史を背景に現在に至っています。地域語を使うことがはばかられるのは、東京語だけが正統で他は劣っているかのような言語の平等性に反する価値観を外から植え付けられているからだと思われます。また地域語を母国語とする話者が自分のことばに対する低い評価を持つことは自ら母国語の言語権を踏みにじることになるでしょう。
 ことばは感性・行動原理のみなもとです。今の日本は江戸時代末期のような混沌状態にあります。東京語や関西語の地域では、将来への不安や閉塞感、治安の悪化、モラルの低下、社会から排除された方々の増加など、様々な問題があり、この連鎖が他地域へも及ぼうとしています。これに比べると長崎はうまく行っています。新しいものや異なったものを広く受け入れる姿勢、見ず知らずの他人への思いやりなど、長崎のことばを抜きにしては理解できないものです。長崎のことばが失われれば、長崎の心も失われてしまいます。19世紀の閉塞は長崎から新時代が生まれることで克服されました。21世紀も独自の価値を維持している長崎から新時代が生まれることを期待しています。
 このように国際的な流れの中でも、また日本国内の中でも、いろいろな手を施していますので、長崎の地域文化、地域言語のために、何とかお役に立てたいと願っております。
(長崎市出身・医学博士・CCC研究所長)

風信

ながさきの空 特集「第十五集」が1月発刊されましたので本会事務所または十八銀行本支店にてお受けとり下さい(無料)。今回は特別企画として本集の中に長崎歴史文化協会内の「古文書を読む会」の皆さんの協力で、江戸時代末・江戸で出版された珍本「長崎傳來智恵鑑」を読み下していただいた。その内容は、
1・女のほれる伝。
1・先へ行く女に跡をふり向せる伝。
1・やけどの妙薬。
1・一合の酒を一升ほどに酔う伝。
など実に面白い話が多く集録されている珍本です。
長崎の文化と深い関係を持つポルトガルと長崎との文化交流を行ってきた「長崎日ポ協会」では新会員を募集することに致しました。参加希望者は本会事務局(本村)まで御連絡下さい。(会費年2,000円)
今年度・本会における海外研修旅行・下記のように企画致しましたので参加ご希望の方は本会事務局(本村)まで御連絡下さい。
A・第2回長崎刺繍のルーツを訪ねて。
期日・3月29日大村空港出発・4月2日帰着。
ルート上海−鄭州−開封(定員・20名まで)。
団長・嘉勢照太。顧問・越中哲也。

B・第15回中国研修旅行。
期日9月上旬(8日間程度)
研修目的・チベット仏教遺跡を訪ねて。
会長・原田正美。副会長・高尾。事務局長・川崎道利。顧問・本保善一郎、越中哲也。