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十一月三日は「文化の日」ですから「何か文化的なものを書いてください」と言われる。そこで最近読ませて戴いた物のなかより感銘を深くした二、三を取りあげてみることにした。 |
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第一は内藤初穂先生よりご恵贈いただいた『トーマス・グラバー始末』(アテネ書房刊)の事を記したい。長崎の幕末より明治初年にかけて大きな影響を与えたグラバーの一生を、これほど巾を広げて取材し、編述されている書物は他にはないであろう。通説のグラバーは「勤皇の洋商であった」というが、グラバーの反面は、初期の洋商としての活躍と、明治建国の日本を利用し且つ明治の政財界人に利用されたエトランゼであると評される著者の評には心うたれた。そして最後の倉場富三郎伝には一抹のさびしさが漂っていた。 |
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第二は長崎大学環境学部の先生方が中心になられて『幕末の長崎』を中心に編纂された辞書を研究され、其の成果を発表されている『辞書遊歩』(園田尚弘・若木太一編九州大学出版会刊)である。たしかに県立長崎図書館、長崎大学武藤文庫、長崎市立博物館には幕末から明治初期の多くの辞書や其の原本の類が保存されているが、其の一ッ一ッについての研究は従来なされていなかった。今回のこの方面の研究は今後の「長崎学研究」の一方向を示すものであると考えている。 |
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最後に矢野道子先生より先生自著の『ド・ロ神父・その愛の手』をいたゞく。
著者は其の序文に「私は何時からか神父様の生きざまをたどってみたいと考えるようになった」と記しておられ、そして矢野先生の御気持は、私達をいつかド・ロ神父が神に奉仕された静かなお祈りの中にさそって下さっている。 |